令和6年度 第1回 サイエンスコミュニケーション

日時
令和6年7月24日(水) 14:00〜17:00(受付 13:30〜)
会場
愛知県立半田高等学校 七中記念館
演題
小さな生き物から学ぶ生命の仕組み -極めることで広がる世界-
講師
森 郁恵  様 (名古屋大学大学院 理学研究科)
森 郁恵
講演要旨

線虫シーエレガンスは、体長約1mmの土壌自活性線虫である。1960年代に分子生物学の創始者であるシドニーブレナーによって生命現象の分子メカニズムを解き明かすためのモデル生物として選ばれて以来、線虫の研究から多くの発見が生まれてきた。体は、わずか959個の体細胞からできており、そのうち、脳神経系を形成する神経細胞は302個しかない。シーエレガンスは、最も単純なモデル生物でありながら、いろいろな外界刺激に反応し、それらを記憶し、餌などの報酬や飢餓などの罰と関連付けて学習する。我々は、線虫の外界温度に対する応答行動(温度走性)に着目して研究を進めることで、動物が外界刺激の入力を受けて、応答行動として出力するまでの神経回路における演算様式を明らかにし、神経系の普遍的原理を解読することを目指している。線虫の行動のしくみを理解することは、ヒトが、世界をどう認識しているかを理解することにつながる。また、線虫は、遺伝子の約7割がヒトと共通であり、ヒトの疾患モデルとしても有用である。本講演では、線虫シーエレガンスをモデル生物として、生命のしくみを解析する学際研究について紹介し、生命科学・脳科学研究のフロンティアについて語りたい。

キーワード
  • 脳科学
  • 学際研究 モデル生物
  • 線虫
  • 記憶と学習
  • 意思決定
  • 神経回路
  • 疾患モデル
講師の先生から

自然は、多くの謎を秘めており、その謎を解き明かすことは、自然科学者の大きな喜びです。生命体も未だ謎の宝庫であり、数えきれないほどの興味深い生命現象に満ちています。生命現象を追求していくことで、生命の成り立ちはもとより、病気の発症や治癒のしくみも理解することができます。自然科学研究において重要なことは、やり続けることです。やり続けることで、きっと、自然現象の本質が見えてくる。本質が見えてくると、自分の前には、考えてもみなかった広く大きな世界が待っていることに気づかされるのです。極めることは自分を狭めることではなく、自分の世界を広げることなのです。

ポスター
第1回案内ポスター
講演の様子

7/24(水)令和6年度第1回サイエンスコミュニケーションを、名古屋大学大学院理学研究科から森郁恵先生をお迎えし講演と交流会を開催しました。近隣の小中学生を含め50名以上の参加者がありました。線虫を研究するきっかけから現在までの研究過程の流れ、最終的に人の遺伝子に応用していくことや今後は更年期についても研究したいとことなどをお話いただきました。専門的な用語や内容も多くあり、とても興味深い内容でした。

講演の様子
参加者の感想(アンケートより)

・生物の知識は全くなく、興味もそれほどなかったが、シーエレガンスの温度走性など興味深い研究がたくさんあって、生物に少し興味が沸いた。研究者になるうえでの心構えなど新しい刺激をもらえて良かった。

・実験をしてみて、結果を考察し、それを元にまた新たな実験をするという研究の仕方を講義の中で感じられて良かったです。 また、一つのことに対して多面的に実験を行っていたり、研究室に様々なエキスパートがいたりして、視野を広く待つ大切さが分かりました。大学院生がADFの研究をして成果を出していたり、研究室のメンバーが集まり笑っている写真があったりして、大学院の研究室に対するイメージがポジティブになりました。