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半田高等学校
在校生論文顕彰

第28回(平成29年度)

第28回(平成29年度)在校生論文顕彰は12月に締め切り、審査を経て、最優秀賞1編、優秀賞3編、佳作5編、特別賞3編が選ばれました。結果発表と表彰は2月に行われました。


基本テーマ
『未来予想図
〜私たちのつくる社会・私たちのつくる世界〜』
応募総数
168編
入賞作品
 題名受賞者
最優秀賞 わたしだけの光よ、あれ 3年
小島 瑠乃
優秀賞 過去から学ぶ未来 1年
小栗 美緒
優秀賞 共生社会の実現のために 2年
榊原 すずか
優秀賞 私たちが考える未来 2年
村松 真由子
佳作 見極める目 1年
中西 夏海
佳作 私が描く未来予想図 1年
堀越 真唯子
佳作 難民問題からみた日本の国際化 1年
辻 彩華
佳作 便利で明るい未来のために 1年
矢和田 菜々
佳作 消える職業 2年
伊藤 菜那
特別賞 戦争が不利益な世界 1年
松波 希美
特別賞 無題 1年
濱田 日向
特別賞 災害から『日常』を取り戻す 2年
伊藤 未来

最優秀作品

わたしだけの光よ、あれ
小島 瑠乃

「生きるって、なんだと思いますか。」
 これは、私が今年の夏の間、何度も何度も口にした一言だ。
 というのも、今年のひいらぎ祭で有志団体 “ProgRess” としてミュージカルを公演し、私はその主人公の少女である渚役を演じた。先の一言は、渚のセリフの一部であるのだ。 私たちが演じたミュージカルのタイトルは、『少女ラザロの永遠』。ラザロとは、新約聖書に登場する蘇生にまつわる人物である。物語のあらすじは、交通事故で亡くなった渚が、三日後に幼馴染の高太郎のもとに復活し、一晩で“生きる意味”を見つけられたら再び生きることができると告げる。二人は様々な人に出会う中で、徐徐に問いに対する本当の答えに気付いていく、というものだ。
 私たち三年生は練習と平行して受験勉強にも力を入れなければならず、本番直前まで焦燥感と不安につきまとわれたが、幕が下りると、一転して今度はこの上ないほどの充実感と安心感に包まれた。また、人間の生と死を扱う深い内容であったために、周りの先生方や友人からの反響も大きく、保護者の方からも「感動しました。」や、「考えさせられました。」などと声をかけていただいた。
 私はその夜、たくさんの人の前で歌い、演技をしきった高揚感の中、ふと、
「考えさせられました。」
そう言ってくれた女性に思いを馳せた。
 なぜなら、私も台本を受け取ってからそれまで、ずっと”考えさせられ”ていたからだ。生きるって、なんだろう。
 私は、これまではそんなことを考えたことがなかった。家に帰れば優しく明るい両親がいて、学校に行けばおもしろい友人がたくさんいる。苦手だった数学は段々と理解できるようになってきたし、得意な世界史は毎日の授業が待ち遠しい。今の生活に不満はなく、明日がくるのが楽しみだ。きっと、この先は大学に入り、たくさんの経験を積み就職をして、いつかは新しい家族を持つのだろう。そんなことを漠然と考えていた。みんなそうだと思っていた。
 しかし、それは間違った考えだったらしい。この世界には、明日を迎えることを楽しみに思えない人たちが少なからずいるのだ。
 そんな悲しい現実を否でも応でも意識せざるを得なくなったのは、今年十月に神奈川県で起きた痛ましい殺人事件のニュースを見たからだ。神奈川県座間市のアパートから九人の遺体が見つかった、という事件で、犯人と被害者が知り合った手段はソーシャル・ネットワーキング・サービスの使用だという。被害者として狙われた方の多くは、犯人にSNSを通じて『死にたい』と話していたそうだ。亡くなられた方々がどんな人生を歩んできたのかは分からないが、私より年下だった方もいるそうで、まだまだ未来が永く永く続くはずの命を簡単に奪っても良い存在など、この世に一つもないはずである。
 例え、死を本人が望んでいたとしても。
以前、ある精神科医の方がインターネットサイトで、
「死にたいと誰かにつげる行為には、『死にたいくらいつらいが、このつらさが少しでもやわらぐのであれば、本当は生きたい』と言う意味が込められています。」
と記しているのを見た。つらさの解決は、実際に死ぬことではなく、気持ちを吐き出せる場所をつくることであったり、優しく抱きしめてあげることであったりというように、相手の心に寄り添うことで糸口がつかめるのではないか、ということだろう。
 では、そもそも人はなぜ生きるのか。
 生きるって、なんだろう。
 大抵の人は、毎日のささいな幸せが明日生きるための活力を生み出す。例えば、新しい服を下ろした日や、夜空の満月を見つけた日。そんな小さな出来事の一つ一つに心が和み、親友とのけんかや部活でミスが続いたことは忘れて明日への希望を抱くことができる。
 しかし、それではどうしても癒せない心の悩みを持つ人も中にはいる。私たちのような学生に最も身近な悩みはいじめだろう。
 近年いじめ問題は様々な場面で取りあげられる。実際にいじめに悩む学生の中では、不登校となってしまったり、ひどい例では心や脳に後遺症が残ってしまったりということもあるらしい。さらに、いじめを受けていても親や先生に相談できないせいで無理をして学校に通い、限界がきて、心だけでなく体まで壊してしまうこともある。
 それをきっかけとして、最悪の場合、自殺を考えてしまう人は少なくないそうだ。某新聞社が発表する昨年度の小中高生の自殺者数は、なんと三百二十件にも及ぶという。その中で学校問題を原因としている事例の件数は約三割を占める。この統計を見た時、私は自分の目を疑った。私は今までの十八年間の人生で自殺をするなどとは一度も考えたことがなかったからだ。しかし、この国では私が知らないところでこんなにたくさんの子どもたちが、それも私と同年代の若い命が、助けを求める心の叫びに耐えきれず自ら未来を照らす命の灯を消してしまっていたのだ。
 この調査に大人の世代の数字も加えたら、きっと私には想像もつかないほどの結果になるのだろう。
 前述のとおり”死”を望む人の多くが本当に必要としているのは理解者である。
 私が望む未来は、自ら死を望まずにいられないほど悩む人が減った平和な社会が実現した未来である。
先ほど『人はなぜ生きるのか。』という問いを発した。これに対し、劇中で渚が見つけた答えは”命”だった。渚はこう続ける。
「生きているってことで一番大事なのは、生きているってことなんだよ。」
 生きることのすばらしさは、生きているから実感できる。それは同時に、誰の人生にもまちがいはない、と示すのだ。
 私はたくさんの人の理解者となりたい。明日を楽しみに日々を生きられる人が増えるように。
 私は悩んでいる人の居場所をつくれる人間になりたい。拓けた未来を期待して生きられる人が増えるように。

参考資料
  朝日新聞デジタル
  (減らない子供の自殺者数)

引用
  ミュージカル『少女ラザロの永遠』
          脚本 金井 遼介