学校案内
半田高等学校
在校生論文顕彰

第21回(平成22年度)

第21回(平成22年度)在校生論文顕彰は1月に締め切り、審査を経て、最優秀賞1編、優秀賞3編、佳作5編、特別賞1編が選ばれました。結果発表と表彰は2月に行われました。


基本テーマ
『地球人として』
応募総数
273編
入賞作品
 題名受賞者
最優秀賞 彼女から学んだ「箱」 2年
大庭 実紗
優秀賞 敵は「無関心」 3年
武村 健太
優秀賞 侵略的地球人 2年
高畑 智瑛
優秀賞 絡み合う幸せ 1年
伊藤 園華
佳作 地球の住人 2年
山下 遥
佳作 幸せな惑星をめざして 2年
榊原 朱梨
佳作 身近なところから 1年
谷山 孝直
佳作 世界共通語 1年
原田 侑果
佳作 独りよがりの過ち 1年
中井 諭
特別賞 かぐや姫に笑われないために 2年
岡戸 愛

最優秀作品

彼女から学んだ「箱」
大庭 実紗

2003年の夏。小学校3年生の私は通っていた英会話の教室のサマーキャンプに行った。そこは全国から年の近い様々な人が集まり、全く知らない約40人と3泊4日共同生活を送るというものだ。そのなかで、私は韓国から来た女性と仲良くなった。彼女はホームステイで日本に来ていて、キャンプに参加していた。

彼女は韓国語と英語を話すことが出来ていたが、小学3年生の私は単語だけの英語で、彼女の言っていることがさっぱり解らなかった。だが幼い私は少しずつ勇気をもって話しかけ、周りに助けを借りながら彼女と会話をして仲良くなっていった。

私はすっかり彼女が生まれ育った国で日本のすぐそばの国である韓国が好きになった。丁度メディアでは韓国のドラマが“韓流”ととりあげられており、キャンプに行く前から韓国を身近に感じていた。私は彼女と韓国語で話しがしてみたいと思い、韓国語の本を借りてきて勉強をした。将来は韓国に行って彼女と会って韓国語で話をするんだ、と意気込んでいた。

だが、少し経って私は父が「やっぱり韓国は…」と批判的に話していたのを聞いた。私は幼いながらにショックだった。韓国は私の好きな国であり、1番親しみを感じでいた国であったのに、1番身近な人が全く反対の意見を持っていたのだ。韓国と日本の歴史的関係と政治的関係をこの時知った。日本人が韓国に抱くイメージがあることを知った。私は次第に父の言葉に影響され始め、韓国に一方的なマイナスイメージを抱き始めた。しかし韓国人の彼女のことは好きだった。そして極端だが『韓国のイメージはよくないが、韓国人は好き』という感覚に陥ったのだ。

『韓国のイメージはよくないが、韓国人は好き』とはどのような事なのか?私は何が嫌いで何が好きだったのか?

私たちは歴史を知らない。ある日、新聞でこんな記事を見つけた。『「日本人といったら、最初に誰を思い浮かべるか」という質問への韓国人の回答で1位は「伊藤博文」。同じ趣旨の質問を日本人にしたら「ペ・ヨンジュン」が1位。』私はこの記事に驚く反面、自分も似たような回答をするだろうと思った。知らないのだ。歴史的に韓国と日本に何があって、どれだけ多くの人が亡くなったのか、どうしてそれが起きたのか、今はどうなっているのか、ということを。もちろん日本史の授業で習う程度のことは知っている。第二次世界大戦中、日本が韓国を併合し植民地支配をしたこと。皇民化政策を推し進め創氏改名を行ってきたこと。だが今なお残る日韓のわだかまりの正体が解らなかった。慰安婦問題、竹島問題、靖国神社参拝問題、教科書検定問題。存在は知っていても、このような問題がどうしてあるのかと説明しろと言われても出来なかった。私にとって日韓の問題は過去の問題であり、今も続くことと捉えにくかった。戦争の酷さを知らないから、過去のことと決めつけてしまう。だが韓国では違う。日本が韓国に対してなにをしたのか、植民地支配によってなにが奪われたのか、きちんと知っているのだ。彼らの中ではこのことは過去では決してない。歴史を知らない日本人と謝罪を求め続ける韓国人。この構図が出来る背景には教育という問題もあるのだ。

歴史的に問題を抱える日本と韓国。最近では韓国の音楽が日本で“K-POP”として流行し、日本人に馴染み深いものになった。歴史を知らない日本人は文化の面から韓国を知る。ニュースで日韓の政治問題が報じられるのに、文化の面ではもてはやすことに違和感を覚えた。

先述の私の仲良くなった韓国人の彼女は日本に対してどう思っていたのだろう。日本は韓国に植民地支配をして、彼女の自国を無碍に扱った過去がある国だ。だが彼女は日本に来て日本を学ぼうとしていた。実際に日本人がどのように思い、韓国との関係をどう思っているのか知ろうとしていたのではないか。

自分で見てみないとわからないことがある。日本と韓国が関係悪化しているとニュースを聞くと、韓国人はみんな日本が嫌いなのかと簡単に思ってしまう。だが彼女のように日本を知ろうとする人だっているのだ。私は人の意見に流され、韓国という国を知ろうとする前に偏ったイメージを持ってしまった。アービンジャー・インスティチュートという作家の言葉を借りると、私が韓国に対して『箱』に入っていると言える。彼の言う『箱』とは、簡単に言えば周りを見ずに自分だけを見て、そのことに気付いていない状態のことだ。私は周りの意見に影響されて『箱』に入って韓国という国を真直ぐに自分の目で見られなくなったのだ。でも彼女は違った。もしかしたら彼女も日本に対して『箱』に入っていたことがあったのかもしれない。だが彼女はそこから出るために自分の目で日本という国を見たのだ。私も彼女と出会った時は真直ぐに韓国を見ていた。『箱』に入らず、1人の友達として彼女を見ていた。『韓国のイメージはよくないが、韓国人は好き』というのは『箱』に入りながらも、彼女を通して『箱』に出来た隙間から見ていたのだ。そして今、韓国という国について自分から知ろうと思い、自分が『箱』に入っていたという事実に気付いて、抜け出すことができたのではないか。

差別や民族問題など世界には様々な問題がある。だがそれらも全て人が『箱』に入っているからだと思うのだ。お互いの立場や文化が異なるということを理解せずに、自分の『箱』の中から相手を見る。そして自分の価値観を押し付けあい戦争が起きるのだ。『箱』に入ったままで理解しあえるはずもないのに。

今は国際化が叫ばれ、異国の人同士が交流できる時代だ。その中でこれから生きていくには、『箱』から抜け出し、真直ぐに相手を見る事が大切になってくるのだ。『箱』から抜け出すのは簡単ではない。だが彼女がそうしたように、まずは自分が『箱』に入っているという事実を知り、自分から相手を知るという姿勢が大切なのだ。韓国の音楽や映画などの文化の面から興味を持つ事も『箱』から抜け出すきっかけになると思う。『箱』の事は日本人や韓国人だけではなく、どこの国でも言えるのだ。いや、『日本人』などという言葉も『箱』に入っているのではないか。『箱』に囚われない“地球人”として生きていくことが私たちに求められていることだ。

2010年は日韓併合から100年の年だ。これを機に韓国という隣国との歴史を学んでみるのはどうだろうか。最近になって父に話をしてみたところ、納得できないことがあるだけだと言っていた。決して悪いイメージがあるわけではないと。私は父に対しても『韓国が好きではない』という『箱』に入っていたのかもしれない。100年というと長いように感じるが国交正常化からは45年しかたっていない。これから日本と韓国がどのような関係を築いていくかは私たちにかかっている。『箱』から抜け出し真直ぐに相手を見ることができたなら、相互理解への道が見えるはずだ。私は彼女を思い出し、まずは自分で韓国という国を見てみようと思う。そこでなにを思い、感じるかはわからない。だが確実に『箱』に囚われていたころの私と決別することが出来るだろう。
 

参考文献

中日新聞2010年8月16日付け 日韓併合100年(A to Z)

中日新聞2010年8月22日付け 社説

「自分の小さな『箱』から脱出する方法」著者アービンジャー・インスティチュート 冨永星訳